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加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』
 

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装幀=ボンバーズ (監修/マーブルトロン中央公論新社/2001)

出版社考案ののサブタイトルは〈17歳って、これだけじゃ無理。〉。
わざわざ〈処女短歌集〉と銘打ってあるのは、著者本人の希望によるものです。
加藤さんの短歌がすばらしいと思って、まずは自分が読みたかったの、
加藤千恵短歌集を。それで企画を編集部に持ち込みました。
いろんなめぐりあわせで出版が実現して、けっこう売れて、評判になりました。
2003年には中公文庫に……。プロデューサー印税もらってるので、
あえて「自著」の1冊としてリストに入れますね。


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■ 十代の言葉が歌になるとき (文=枡野浩一)

 むしろ十代の若者たちのほうが言葉の扱いがうまいんじゃないか、最近はそんなふうに考えている。NHK総合テレビの昼番組『スタジオパークからこんにちは』の中で、「かんたん短歌塾」というコーナーの「先生」を一年近く担当してきた。番組には膨大な数の短歌が送られてくるのだが、「これは!」と驚くような作品にかぎって、学校をたまたま休んで番組を見たという高校生がつくったものだったりするのだ。平日の昼番組だから、視聴者の多くは主婦やお年寄りであり、投稿者の平均年齢もかなり高かったというのに。
 むろん、短歌を選ぶ「先生」である私が三十二歳の若造だから、お年寄りの気持ちよりも若者の気持ちのほうが理解しやすい、という側面はあるにはあるのだろう。でも実際のところ、私が提唱する「かんたん短歌」のルールにしたがって短歌をつくってもらうと、お年寄りも若者も「現在の言葉」という同じ土俵で勝負しなければならなくなるため、日本語の扱いの上手・下手が単純に比較しやすくなる、そういう一面もあるにちがいない。
 短歌といえば、古典の言葉(文語)を外国語のように学んでから、お勉強するようにつくるというのが昔からの主流だった。だが俵万智ブームから十数年がたった今、現在の言葉(口語)で短歌をつくることも、自然な選択のひとつと考えられるようになってきた。文語を扱うとなると、どうしても戦前教育を受けているお年寄り世代のほうが有利だろうが、現代の言葉で勝負すると、今度は若者世代の意外な言語感覚のよさが目立ってくる。
 ちなみに私が短歌入門書『かんたん短歌の作り方』(筑摩書房)で提唱した「かんたん短歌」創作のルールは、次のようなものだ。

【ア、あくまで五七五七七で!】
 とにかく日本語の音のリズムが、五・七・五・七・七ぴったりになるよう工夫すること。
【イ、いつもの言葉づかいで!】
 短歌だからといって急にかしこまって、つかい慣れない言葉をつかったりしてはいけない。
【ウ、嘘をついてでも面白く!】
 面白い出来事をそのまんま書けば面白い短歌になる、というのは幻想。当たり前のことを「面白く」書くことで、初めて面白い短歌が生まれる。

 ……基本は以上三項目。具体的なコツは、【助詞の「を」「は」をなるべく省略せず、一見ほとんど短歌には見えないように、散文(=エッセイなどの普通の文章)そっくりに見えるように仕上げる】といったところだろうか。簡単な言葉だけしかつかわれていないのに、読むと思わず感嘆してしまうような短歌。それが私のめざす「かんたん短歌」だ。

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 NHK「かんたん短歌塾」の最終回では、これまでの投稿の中で最もよく出来ていると感じた作品をいくつか、もう一度紹介した。

●「何か用?」あなたはいつも言うけれど「好きです」なんて言えるわけない (平崎舞)

 ……北海道の高校生の作品。とても可愛らしい女の子の気持ちを歌っているから、表現技術もつたないのではないかと錯覚しがちだが、作品の完成度はかなり高い。普通の散文そっくりに見えるのに、〈「何か用?」/あなたはいつも/言うけれど/「好きです」なんて/言えるわけない〉と、きれいな五七五七七になっている。自分でやってみるとわかるが、ここまで自然な感じに仕上げるのは難しい。「好きです」なんて言えるわけない、と言いながら、短歌全体では「好きです」と言っている……というレトリックも秀逸。バレンタインのチョコに添えるカードに書いておくとか、実用性があるところも買い、だ。

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 ちなみに「この短歌は上手」という話をする場合、「この短歌は下手」という例もきちんと出しておかないと不親切かもしれない。

●痛いのを我慢できない友人が死んでしまった セデス100錠 (佐藤真由美)

 二十代半ばの女性がつくったこの短歌は、明らかに失敗作だ。一見どこにも問題がないように思えるが、最後の〈セデス100錠〉のところで言葉を放り出して、逃げてしまっている感じがする。それとくらべてみると、

●100錠は飲み過ぎだった 痛いのを我慢できないあなたにしても (佐藤真由美)

 ……こっちの短歌は成功している。作者が三年近い時間をかけて(=自作を冷静に見つめなおして)推敲した結果、ここまで変身したのだ。ほぼ同じ意味のことを表現しているのに、こんなにも印象がちがう。すなわち、「あらすじ(事実の説明)」になってしまっているのは失敗作。「描写(真実の発見)」になった時点で、成功作になるのだと思う。

●この煙草あくまであなたが吸ったのね そのとき口紅つけていたのね (佐藤真由美)

 ……さっきと同じ作者の作品。浮気男のしどろもどろが目に浮かぶようなこの傑作を、私がわざわざ失敗作につくりかえてみると、

●口紅のついた煙草をあくまでも俺が吸ったと言い張る男 (枡野浩一による改悪例)

 ……原作にあった面白さが半減した。まったく同じ内容の短歌なのに、後者は「あらすじ」っぽくて、前者のような説得力がない。
 私は正直、新聞の短歌投稿欄などに載っている短歌のほとんどは、この駄目な「あらすじ短歌」のレベルにとどまっているのではないかと考えている。もっと的確に言いあらわす別の表現が見つかるはずなのに、五七五七七にハマった段階で「あ、完成した!」とカンチガイしてしまう人が多すぎるような気がする。つかい慣れない古語を扱うだけでも精いっぱいで、微妙な言いまわしを吟味する冷静な視点が持てないせいなのかもしれない。
 ベテラン歌人の先生方にも、ぜひ一度「かんたん短歌」に挑戦してみていただきたい。「かんたん短歌」はごまかしのきかない短歌だ。つまらない短歌をつくると、一目瞭然で「つまらない」と言われてしまう。古語の雅びやかな雰囲気で、読者をけむにまくことはできない。主語と述語のねじれなど文法のミスもすぐバレる。だれも今どき言わない「死語」をつかえば鼻で笑われてしまう。簡単な言葉で書くのって、なんて難しいんだろう!

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 ところで、短歌はもともと「早熟の天才」を生みやすいジャンルだ。石川啄木も、寺山修司も、若いころの作品が専ら愛唱されている。つまり、「上手な短歌をつくる十代」というのは昔から当然いたわけだけれど、「現在の言葉で上手な短歌をつくる十代」というのは最近になって目立つようになった存在ではないか。
 現代語で短歌をつくる歌人は珍しくない。たとえば、十年前に刊行された幻の歌集『四月の魚』(まろうど社)が、昨年末ついに復刻されて一躍注目を浴びている正岡豊。

●みずいろのつばさのうらをみせていたむしりとられるとはおもわずに

●へたなピアノがきこえてきたらもうぼくが夕焼けをあきらめたとおもえ(正岡豊)

 といった現代語だけでつくられた短歌は、ひたすら美しい。が、同時に『四月の魚』には古語でつくられた短歌も収録されている。

●クリーニング屋の上に火星は燃ゆるなり彼方に母の眠りが見えし(正岡豊)

 見事な古典調である。じつは、後者のほうが作者十代のころの作品であり、前者は二十代のころの作品だという。「文語→口語」といった道すじをたどることは、短歌界ではそれほど特別なことではなく、むしろ十代たちが最初から現代語で短歌をつくるようになったのは「俵万智革命後」……と考えてよいのかもしれない。
 もちろん枡野浩一による革命も忘れないでほしい。拙著『かんたん短歌の作り方』は、拙著とは名ばかりの画期的な名著である。本書を読んで初めて短歌に興味を持ったという若者たちが、続々すばらしい作品をつくっては私のもとに送ってくれる。革命は成功だ。


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 これも乱暴な原稿。我田引水が過ぎるかなあ。まだ加藤千恵が『ハッピーアイスクリーム』(発行=マーブルトロン、発売=中央公論新社)を出す前で、私の中で売り出しキャンペーン中という感じだった。
 佐藤真由美ものちに『プライベート』(発行=マーブルトロン、発売=中央公論新社)などを刊行。
 ここで紹介した短歌、作品集では表記の変更あり。

(コメントは「短歌ヴァーサス」創刊号。一部修正。後半のエッセイは「月刊ジェイ・ノベル」より。)

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  増野ではなく升野でも舛野でも桝野でもない枡野なんです (枡野浩一)
  枡野浩一です。私の公式サイト『ますので』は、友人たちがつくった会社、階段社によって運営されています。枡野への連絡はまず、メール(ii@masuno.de)でお願いします。電話が少し苦手です。また、メールまたは郵送で送られてきた作品に感想を言うようなことは一切していません。何卒ご勘弁ください。どうぞよろしくお願いします。
 
image 『かなしーおもちゃ』以降の本の紹介ページが未完成ですみません。順次また……。
枡野書店とは?
枡野書店は実在します。たまに枡野書店謹製グッズも作っています。下の写真の枡野浩一が身につけているのは、短歌Tシャツや単行本発売記念マフラー(いずれも完売)。また思いついたら作ります。


 
枡野浩一の銀行口座
  この才能ある歌人に財産をあげたいという大金持ちの方は、ご自由にお振り込みください。

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吉祥寺支店(220) 
普通 0121660 
マスノ コウイチ


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仕事の依頼等は、ii@masuno.deまでお願いします。枡野浩一に転送されます。お返事は出せませんが、ファンレターも有り難く拝読しています。「私の短歌を読んでください」というメールはご遠慮ください。
 
 
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